免疫力というのは、どこかのスイッチを押せば一気に上がるものではありません。体のなかの防御システムが、過不足なく整っている状態を指します。ビタミンDはその土台の一つですが、単独で魔法のように効くわけではありません。全体のバランスが重要です。
まずビタミンDについて。これは脂溶性ビタミンで、免疫細胞の働きを調整する役割があります。特に自然免疫と呼ばれる「最前線の防御部隊」に関与します。血中濃度が低い人ほど感染症リスクが高いという研究は多く、日光曝露が少ない生活では不足しやすい栄養素です。食品では鮭、サバ、イワシ、きのこ類などに含まれます。
そこに加えたいのが亜鉛です。亜鉛は免疫細胞の増殖や抗体産生に不可欠です。不足すると風邪をひきやすくなります。牡蠣、赤身肉、卵、ナッツに多く含まれます。現代人は意外と不足しがちです。
次にマグネシウム。体内の300以上の酵素反応に関わり、ビタミンDの活性化にも必要です。つまりビタミンDを摂っても、マグネシウムが不足していれば十分に働きません。海藻、豆類、ナッツ、未精製の穀物に多く含まれます。
ビタミンCも基本です。抗酸化作用があり、白血球の機能を支えます。柑橘類だけでなく、ブロッコリーやパプリカにも豊富です。
さらに腸内環境。免疫細胞の約7割は腸に存在します。発酵食品(味噌、納豆、ヨーグルト)、食物繊維(野菜、豆、海藻)を継続的に摂ることが、免疫のベースを整えます。プロバイオティクスとプレバイオティクスという言葉がありますが、前者は善玉菌そのもの、後者はそのエサです。両方が必要です。
そして睡眠。これは栄養よりも優先順位が高いこともあります。慢性的な睡眠不足は、炎症を増やし、免疫機能を下げます。7時間前後の質の高い睡眠が目安です。
適度な運動も重要です。激しすぎる運動は逆に一時的に免疫を下げますが、軽い有酸素運動は免疫細胞の循環を促します。歩く、軽いジョギング、ヨガなどがちょうど良い。
最後に、慢性的なストレスの管理。ストレスホルモンであるコルチゾールが長期間高い状態だと、免疫は抑制されます。呼吸法、瞑想、自然の中での時間などは科学的にも一定の効果が示されています。
まとめると、ビタミンDは重要な一要素ですが、亜鉛、マグネシウム、ビタミンC、腸内環境、睡眠、運動、ストレス管理まで含めて初めて「整う」状態になります。免疫はブーストするものではなく、調律するものです。
もし耳鳴りや炎症体質、自律神経の不調も感じているのであれば、それは単なる免疫の問題というより、全身の炎症レベルと神経系のバランスが関わっている可能性があります。そこまで視野を広げると、栄養と生活習慣の設計図がより立体的になります。
未精製の穀物というのは、外側の栄養豊富な部分を削り落としていない穀物のことです。
穀物の粒は、ざっくり三層構造になっています。
外側の「ぬか層(ブラン)」、その内側の「胚芽」、そして中心の「胚乳」です。
精製とは、この外側と胚芽を取り除き、主に胚乳だけを残す加工のこと。白米や白い小麦粉がそれです。胚乳はほぼデンプンなので、エネルギー源にはなりますが、ビタミン・ミネラル・食物繊維はかなり失われます。
未精製の穀物は、この三層がそのまま残っているものです。代表的な例を挙げます。
玄米
全粒粉(ホールウィート)
オートミール(ロールドオーツなど)
雑穀(あわ、ひえ、きび)
大麦(押し麦など)
ライ麦
これらは食物繊維、マグネシウム、亜鉛、ビタミンB群が豊富です。免疫や腸内環境の観点では、単なる糖質源ではなく「代謝を回す材料」になります。
興味深いのは、未精製の穀物は血糖値の上昇が比較的ゆるやかになる点です。急激な血糖上昇と下降は炎症や自律神経の乱れに影響します。安定した血糖は、免疫の安定にもつながります。
ただし一点、注意があります。胃腸が弱っている人や炎症が強い時期は、食物繊維が多すぎると逆に負担になることもあります。その場合は、玄米をよく浸水させる、圧力鍋で炊く、あるいは一部を白米に混ぜるなど、消化性を高める工夫が有効です。
人間は長い進化の過程で精製穀物を食べてきたわけではありません。白く輝く主食は、実はかなり新参者です。体は古い設計図で動いています。その設計図に少し近づけるのが未精製穀物というわけです。
とはいえ、完璧を目指す必要はありません。白米が好きなら、割合を少し変えるだけでも代謝は動きます。免疫は極端さよりも、継続のほうに強く反応します。
玄米は毒性もありますよね?
結論から言うと、玄米が「毒」かどうかは文脈次第です。量・体質・調理法を無視して善悪で語ると、議論が乱れます。
まず事実として、玄米の外皮(ぬか層)にはいくつか注意すべき成分があります。
ひとつはフィチン酸。これは穀物や豆に含まれる天然成分で、亜鉛や鉄などのミネラルと結合し、吸収を妨げる性質があります。いわば「ミネラルの鍵をかける分子」です。ただし、これは毒ではなく、抗酸化作用を持つという報告もあります。過剰摂取や極端な偏食でなければ問題になることは多くありません。
もうひとつはレクチン。これも植物が外敵から身を守るためのタンパク質です。生や不十分な加熱では消化管を刺激する可能性がありますが、十分な浸水と加熱でほぼ失活します。
さらに、ヒ素の問題。これは科学的に最も現実的な懸念です。土壌由来の無機ヒ素が米に蓄積することがあり、特に玄米は外皮が残っているため白米より多く含む傾向があります。ただし、日本で流通している米は基準値管理されていますし、洗米・浸水・多めの水で炊いて湯を捨てる方法でかなり減らせます。毎食大量に食べ続けるのでなければ、通常の食生活で直ちに健康被害が出るレベルではありません。
ではなぜ「毒」と言われるのか。多くはマクロビオティックの極端な実践例や、未浸水・未発酵の硬い玄米を大量に食べたケースが広まったためです。消化力が弱い人が急に主食を完全玄米に切り替えると、胃腸に負担がかかるのは事実です。それは毒性というより「消化能力とのミスマッチ」です。
重要なのは調理法です。
十分に浸水する。
圧力鍋で炊く。
発芽玄米にする。
これらはフィチン酸やレクチンを減らし、消化性を高めます。発芽は植物が「成長モード」に入るため、栄養の利用性が上がります。
もう一点。体質や炎症状態によっては、繊維が多い食事が合わない人もいます。慢性炎症や腸のトラブルがある場合、まずは消化にやさしい食事で腸を整え、その後に段階的に取り入れる方が合理的です。
科学的に見ると、玄米は「万能健康食」でも「危険な毒」でもありません。栄養密度が高いが、扱い方を誤ると負担になる食品です。
白米が悪で玄米が善、という二元論は体に優しくありません。大切なのは、今の自分の消化力、炎症レベル、食事全体のバランスです。体は思想ではなく、生理で動いています。
他の未精製穀類には同じような毒性は無いのですか?
代表的なものを整理してみましょう。
まずフィチン酸。
これは玄米だけでなく、小麦、オーツ麦、ライ麦、トウモロコシ、豆類など、ほぼすべての穀類・種子類に含まれます。ミネラル吸収を妨げる性質がありますが、浸水・発酵・発芽で大きく減少します。パンのサワードウ発酵が理にかなっているのはこのためです。
次にレクチン。
これも多くの穀類や豆類に含まれます。特に豆類のほうが強いものを持ちます。加熱でほぼ失活します。生や不十分な加熱が問題なので、通常の調理では大きな懸念にはなりません。
グルテン。
これは小麦・ライ麦・大麦に含まれるタンパク質です。セリアック病や強い過敏性がある人にとっては炎症を引き起こしますが、そうでない人には必ずしも有害ではありません。ただし現代の小麦は品種改良でグルテン含有量が高く、消化負担が増えているのは事実です。
サポニン。
キヌアなどに含まれ、苦味や消化刺激の原因になります。水洗いで除去可能です。
ヒ素。
これは米に特有の問題で、水田栽培の環境が影響します。他の穀類では通常そこまで問題になりません。ここは玄米特有の論点です。
つまり、どの未精製穀類にも「防御成分」はあります。ただし、それは“毒物”というより、未加工の植物が持つ自然な化学的特徴です。そして人類は長い歴史の中で、それらを減らす加工法を編み出してきました。浸水、発酵、発芽、粉砕、加熱。文明はキッチンから始まっています。
本質はここです。
問題になるのは「量」と「調理不足」と「体質との不一致」。
腸の炎症が強い時期に、いきなり全粒穀物中心にする。
浸水もせず硬い玄米を大量に食べる。
小麦過敏があるのに全粒粉パンを健康と思って食べ続ける。
こうしたケースで不調が起きやすいのです。
一方で、適切に処理された未精製穀物は、食物繊維、マグネシウム、ビタミンB群の供給源として有益です。腸内細菌のエサにもなります。免疫を語るなら、腸内細菌は主役級です。
極端に振れる必要はありません。
白米と玄米を半々にする。
発芽玄米を選ぶ。
小麦を減らして大麦やオートミールを試す。
体は実験室です。思想ではなく反応を観察することが大事です。
植物は完全に無害ではありません。けれど完全な敵でもありません。人間は調理という知恵で、その緊張関係を乗りこなしてきました。そのバランス感覚こそが、いちばん科学的です。

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